アードラーの夢

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おかけい

あなたが逝って半月経ちました。

なぜか、もう何ヶ月も経ったような気がします。

4月7日木曜日の夕方、新潟のHさんが連絡をくださいました。
J先生が応対されて、何が起こったのかをお聞きして
いてもたってもいられず、すぐまたHさんに電話をかけました。
なんとかお別れに行きたいと思ったのです。

でも自分で電話をかけておいて、うまく言葉が出ず
Hさんも「急なことで」を繰り返され
結局、場所的にも時間的にもむずかしく
予定も入っていたので、あきらめました。


あの日は新月でしたね。
真っ暗な夜。
朝から嵐のような雨風で、
夜になって雨は収まったけれど、烈しい風が満開の桜の木を揺らしていました。

四月七日
  朔(ついたち)の風のはげしき夕ぐれに桜とともに友はゆきたり

少し前から短歌を始めていたのですけど、不思議ですね。
「新月」って古語ではなんていうのだろう?と調べたりして。
こんなときに何を私はしているんだろう?って思いました。

だけど、そんなふうに何かに頭を使っていると
その間だけは、悲しみから距離をおくことができたのです。
・・・文学の力を、ちょっと実感しました。

出来た歌を自分で読んで、泣きました。

それからJ先生と、あなたのためにお経をあげてお勤めをしました。
いっぱいいっぱい泣きました。


あなたのことばかり考えて
悲しくてしょんぼりしていましたが、

ふと抜け出したような気持ちになったのが、
これも不思議なもので
ちょうど9日の告別式の終わったぐらいの時間でした。

おそらくあなたの肉体が役目を終えた頃だったのでしょう。

だってあなたはもう十分すぎるほど頑張ったんですから
肉体から離れて自由になって良かったんです。
今ごろ、「あーすっきりした!」って喜んでるんじゃないでしょうか。

四月十一日
  遠きゆえ久しく会えぬ友なりき菩薩となりてここに来たまふ

鳥のさえずりや
桜のひとひらに
あなたの訪れを感じます。


あなたはいつも明るくて
あなたがいるだけで、そこに笑顔があふれましたね。
どれだけ身体がしんどくて辛くても
仕事になったらしゃきん!として、本当にプロでした。
アドラー心理学にぞっこんで
「私わがままだから~」なんて言いながら
やっていることはいつも「みんなのために私に何ができるか」でしたよね。

だから私は、あなたの姿が観音菩薩さまと重なって見えるのです。
またアドラー心理学の近くに転生してきてほしいって言う人もいるけど、
私は、あなたはきっとデワチェンにまっしぐらだと思うな(^^)

四十九日の間は
上等のお香を焚いて
きれいな和ろうそくを灯して
あなたを偲びます。

四月二十日
  灯(ともしび)は旅で求めし絵ろうそくピンクの蓮を友も好まむ


本当にたくさんのことをあなたから教わりました。
あなたへの年賀状に何度も書きましたけど、
私はアドラーの後輩たちと接するとき、いつも
「こんなとき、おかけいならどうするかな?」と考えて動いています。
これからもきっとそうすると思います。
力を貸してくださいね。


あなたとの楽しかった思い出を書き出すには、まだ少し時間が要りそうです。

今はただ、
あなたと出会えてよかったということだけ。

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by prem_ayako | 2016-04-23 21:42 | friends | Comments(1)

タオの勲(いさおし)

 ある夏の夜明け、ひとりで水を汲みに出たタオは、水場のすみで眠っている人影を見て、驚いて桶を落としそうになった。それは灰色の毛織りのマントをまとった老人で、タオを認めるとしわがれた声で名を呼んだ。「タオ。」
 恐ろしさのあまり吐き気がこみあがるのをこらえて、タオは言った。
「お、お前はこの村の者じゃないな。誰だ?」
 老人が笑うと、まるで喉に穴があいているみたいに、ひゅうひゅうと音がした。
「そうとも。村人ならばこんなところでお前を待ちはせぬ。」
「誰だ? なんで俺の名前を知っている?」
 老人は、今度は笑い声をたてず、灰色の濁った目でまっすぐにタオを見た。
「わしはお前を生まれる前から知っている。お前が知らなかっただけだ。」
「死んだ父さんの知り合いか? 草原の向こうに隠者がひとり住んでいるって、母さんに聞いたことがある。」
「まあそんなものだ。」
 そう言う老人の目をふちどる、まつげも眉もすべてが灰色だとタオは思った。そして大好きだった父の知り合いならば、恐れることはないのだと、体がゆるむのを感じた。
「でも俺に何の用? 母さんなら、たぶんヤクの世話に出ているよ。」
「タオ、わしはお前に頼みごとがあって来たのじゃ。草原の先、川の向こうの岩山に、聖なるミラレパ尊者の洞窟があるのを知っておろう。お前の生まれる少し前、わしはお前の親父とふたりでその洞窟を訪れたことがあるのじゃが、そのことは聞いているかな?」
「ううん。父さんは俺が5つのときに死んでしまったけど、そんな話は聞いたことがない。」
「では教えてやろう。お前の母御はもともと体が弱くてな、お前の親父はお前と母御がお産で命を落とさぬよう、ミラレパ尊者に願をかけたのだ。」
「・・・そうだったんだ。でもその父さんは、雪解けの川に落ちて死んでしまった。」
「タオ、お前と母御の命を救ったその父が、ミラレパ尊者の洞窟に残した形見の宝物を、手にしてみたいとは思わぬか?」
「形見の宝物・・・?」
「そうじゃ。」
「それは何?」
「それは自分の目で見て確かめるがいい。とてつもなく尊いものじゃ。」
 タオはまた胸がむかむかしてきた。
「どうじゃ。お前の親父が死んで7年経つが、世の中はますます悪くなってきた。わしはのう、あの宝物を取り出す時がきたように思うんじゃ。」
「でも・・・」
「でも、何じゃ?」
「どうしておじさんはそんな大事なことを俺に頼むの? 何故おじさんが自分でそこへ行かないの?」
 老人は首をふって言った。
「さあそれよ。わしは年をとって目が見えなくなってきた。あの洞窟まではもうとても行き着けん。しかもあの洞窟はヤルンツァンポ川を臨む崖の上にある。先年の大洪水で流れがずいぶん変わったと聞く。もしあの崖が崩れれば・・・」
「父さんの宝が、流されてしまう?」
 それは厭だ、とタオは激しく思った。
「おじさん、どうすればいい? 俺はこんなに青白くて弱っちいんだ。友だちが1里行く間にも俺は半里しか歩けない。俺は、でも、父さんが俺と母さんのために捧げた宝を救いたい。父さんを救うことが、俺にはできなかったのだから・・・!」
「ほんとうにそう願うなら」老人は霞のかかった灰色の目を、ひたとタオに注いで言った。「必ず観音菩薩のご加護があるじゃろう。」

 2日後、タオは灰色の老人に言われた道を、ヤクのニンジェといっしょに南を指して歩いていた。母さんは1週間分の食料を用意してくれた。昼は、食料と少しの荷物をニンジェの背に振り分けて歩いた。夜は、ニンジェの運んだ毛布にくるまって、この大きな獣のごわごわした首の毛に顔をおし当てて眠った。
 見渡すかぎりはるかかなたまで、なだらかな丘が続いている。波打つ草の緑の海に近づいてみると、色とりどりの花がまるで燃える火の玉のように咲いている。雲が、タオの先へ先へと飛んでいく。その雲の落とす影もまた、草の上をタオの先へ先へと流れていく。聞こえるものは、ニンジェの背に乗せた荷物のふれあう音だけだ。ときおり皮袋の水を飲むために立ち止まると、足もとの花に群がる虫の羽音がわきあがってくるのだった。

 3日目、草原を越えて大きな川に出た。ヤルンツァンポ川だ。父を飲み込んだ川、ミラレパ尊者の洞窟のある崖を今まさに削りとろうとしている川。この川の上流に1カ所だけ歩いて渉れる場所があるという。
 その男は、岸の赤っぽい大きな岩にもたれて立っていた。ほとんど裸で、日に焼けた肌はつやつやと黒く光っていた。そばに頑丈そうな筏が引き上げられている。男からは魚のにおいがした。
「乗っていくか?」男は愛想よく言った。
「ありがとう。でも、上流に行けば歩いて渉れると聞いている。」
 男の白い歯がぎらりと光った。「上の浅瀬まで行くつもりかい? うんと遠回りになるぜ。ここで渡れば楽だよ。」
 タオは迷った。川幅は広く流れは速かったが、筏はしっかりしているように見えた。ところが、いつもいうことをきくニンジェが、このときは怯えてどうしても筏に乗ろうとしない。「どうした? おいで、怖くないよ。」タオは一生懸命彼女を説き伏せようとしたが、ニンジェは4本の足を力の限りふんばって一歩も動くまいとするのだった。
「そんな役立たずはおいていけよ。」船頭の男は言った。「ここは草がたっぷりある。岩につないでおけば、おとなしく待ってるだろうよ。」
 タオはニンジェの目を見た。「いや、おいてはいけないよ。友だちなんだ。」
 男は肩をすくめた。「そうかい、じゃ勝手にしな。」
 
 タオは男と別れて上流に向かった。しばらく行くと、川辺の灌木の陰に若い男がひとり座っていた。その男は長い髪を後ろにひとくくりにして、白い木綿の服を着ていた。彼はなにやら歌っていたが、タオに気がつくと歌うのをやめて「やあ」と言った。「こんなところで人に会うとはな。しかもガキがヤクと連れだって。」
 タオはむっとした。「俺はガキじゃない。ちゃんとした名がある。」
「じゃあ聞かせてもらおう。」
「そういうお前が先に名乗れ。」
 若者はにやっとして、まあ横に座れとタオを招いた。「俺はレパ。巡礼だ。」
 巡礼は、山を越え谷を越え、ひたすら聖地をめぐって功徳を積んでいる。巡礼を敬うことは、すなわち仏を拝むことになる。タオはレパと名乗る巡礼に三拝して横に座った。「俺はタオといいます。このヤクはニンジェ。この先の岩山にあるというミラレパ尊者の洞窟へ行くところです。」
「それならお前も巡礼か?」
「いいえ。」タオは灰色の老人に会ってから3日の間のできごとを残らずレパに話した。黙って聞いていたレパはタオが話し終えると、よくとおる声で歌いだした。
 「ああ、めずらしきかな。
  しかるべき供えをすれば
  どんな願いも叶えられ、
  あやまった供えをすれば
  命さえも奪われる。
  恐ろしきジェツン・ミラレパの洞窟を
  確かめ行くは勇者タオ。」
 歌い終わるとレパは立ち上がり、自分の荷を腰につけた。「タオ、俺に食うものをくれ。明日はいっしょに川を渉ろう。」

 その夜は雨が降った。一行は川筋を避けて樫の林の中で寝た。翌朝のヤルンツァンポ川は水かさが増して、足をすべらせればたちまち流されてしまいそうだった。4つ足のニンジェは楽々と足場を見つけるので、タオとレパはニンジェの後について川を渡った。
「見ろ、タオ、あれが尊者の洞窟だ。」レパの指さす先、切り立った白い崖のおもてに小さな黒い入り口が見えた。「ロープはあるか?」
「はい、ニンジェに積んでいます。」
「よし、ロープを持ってこっちへまわれ。ニンジェには、悪いが崖の下で待っていてもらおう。」
 崖の下に着くと、ニンジェはおとなしく待つことに決めたようだった。
「タオ、崖に道があるのが見えるか?」
「崖に道が?」
「そうだ。昔から何百人の行者がこの崖をのぼって尊者の洞窟に詣でた。その者らのつけた手の跡、足の跡が、岩肌に金色の筋となって残っているのが見えないか?」
 タオは一心に目を凝らして岩肌を眺めた。はじめは何も見えなかった。が一瞬、雲が切れて朝の光が斜めに崖を照らしたとき、かすかに点々とくぼみが光った気がした。
「・・・あっ。」
「見えたか。」そしてレパはまた歌った。
 「ああ、めずらしきかな。
  ひとつは闇を払うまことの道
  ひとつは闇に誘うよこしまの道。
  まことを求める勇者だけ
  正しき道の跡を見る。
  恐ろしきジェツン・ミラレパの洞窟を
  確かめ行くは勇者タオ。
道は必ず見つかる。行け、タオ、上るのだ。」

 タオは、そのかすかに光る金色のしるしをたよりに崖を上った。レパがついてきているかどうか、分からなかった。はるか下で、ニンジェが体を震わせ音をたてたのを聞いたような気がした。そして、腕も肩も、もうどうしても動かせないと思ったそのとき、指先が洞窟の入り口にかかった。最後の力でタオは身体を持ち上げ、暗い穴の中に転がり込んだ。
 タオは疲れ果て、しばらく息をつくことができなかった。やがて目が慣れると、洞窟の中がぼんやり見えてきた。ミラレパ尊者の洞窟は3畳ほどの広さで、正面にあるのは尊者の像と祭壇のようだった。まず三拝だ。そう思って立ち上がったタオは、またもや息がとまりそうになった。「誰だ!?」
 今まで気づかなかった奥の暗がりに、黒い影がうずくまっていた。その影はゆらゆらと立ち上がり、白い歯を見せた。「俺だよ。」覚えのある匂いがして、あの船頭だとタオは思った。また吐き気がしてきた。
「よくここまで来たな、坊や。ほめてやろう。このあいだは、もう少しのところであの獣にじゃまをされたがな。でも、ここまでだ。とっとと帰れ!」
 タオはかすれた声で叫んだ。「い、いやだ。俺は、父さんの宝を・・・父さんの生きたあかしを、確かめに来たんだ。じゃまするな。」
 男は大口をあけて笑った。すえた魚のにおいが強くなった。「バカ、死んだ者のことなど放っておけ。今さら何をしても無駄さ。」
 タオはかっとして叫んだ「無駄じゃない!」しかし、男の言葉は思いがけずタオの心を貫いた。男から視線をはずし尊者の前の供物の山に目をやったとき、タオはそこに横長の木箱があるのに気がついた。木箱のふたには、母さんの晴れ着と同じウパカラの花の模様が彫られていた。
 次の瞬間、タオはその木箱に飛びついた。
「それにさわるな!」男が差し迫った声で叫んだ。「さわってはいかん! 元に戻すんだ! でないとひどいめにあうぞ!」
「いやだ! 俺はこれを持って帰る。」
「許さん! 戻せ!」
「これは父さんからの供物だ! お前には関係ないだろう。」
「いや、それを持ち出すとたいへんなことになる。呪われるぞ。バカ野郎! 元の場所に戻せ!」
 この男が飛びかかってきたら、タオはたちまち箱を奪われてしまうだろう。だが男は、恐ろしい顔で手を振り回して怒鳴っているが、タオに近づいてこようとはしない。何故だ?
「戻せ!」
「いやだ!」
 タオは、いきなり木箱を男に向かって突き出してみた。男は「あっ」と後ろに跳びのいた。
「そうか! お前はこれにさわれないんだな? 中身は何なんだ?」
 タオはゆっくりと箱を下に置き、男から目を離さないように気をつけながら、手探りで木のふたを開けにかかった。
「や、やめろ!」
 掛けがねがカチッと音をたて、タオは箱のふたを開けた。その瞬間、中からまばゆい五色の光が放たれ、一瞬のうちに、何年も闇に沈んでいた洞窟は、隅々まで光に洗われた。「だめだ! ああっ!」光を浴びて、男の姿はもはや人間ではなかった。ふくれた腹、飛び出た目玉、小さな口・・・餓鬼だ。「封印が解かれた・・・もう駄目だ・・・」餓鬼の体はしだいに縮んでゆき、ついに塵となって消え果てた。
 木箱はまだ仄かに光を発していた。我に返ったタオは、ミラレパ尊者に三拝してから箱の中を調べた。入っていたのは、幾重にも包まれた古い教典だった。

 それからタオは木箱をしっかりとふところに入れ、洞窟の入り口に生えている樫の木にロープをかけ、ゆっくりと崖を降りていった。下ではニンジェが、のんびりと草を食んでタオを待っていた。レパの姿はどこにもなかった。タオはニンジェの首を叩いて言った。「ただいま、ニンジェ。俺が見たのは夢だったのかな。」


 7日目に、タオとニンジェは村に帰ってきた。その後1度だけ、タオは草原の向こうに住む灰色の老人に会いに行った。老人は震える手で木箱の中を確かめた。この経典は迫害を予知したグル・リンポチェが、1200年前に土に埋めたテルマの1つだという。タオの父さんは埋蔵教典を掘り出す力を持つテルトンという血筋の者で、老人もそうだった。そしてタオも。
 タオがミラレパ尊者の洞窟から取り出した埋蔵経は、ゴンカン寺に納められた。経典を一読した僧は驚きを隠さなかった。このテルマは、悪霊を払うきわめて強い力をもっている。世に出れば衆生に大きな利益をもたらすだろう。
 巡礼のレパには2度と会うことがなかった。だが「タオのいさおし」は今もこの地で歌い継がれている。ヤルンツァンポ川はその後氾濫を繰り返し、あの洞窟に近づく者はもう誰もいない。
 


2016年4月4日 脱稿
 
 
 
 
 
 
 
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by prem_ayako | 2016-04-04 22:11 | merchen | Comments(2)

アードラー先生は夢を見なかったそうです。しかしてアードラーの夢とは兎の角、虚空の華、ガンダルヴァの城、空、幻・・・。


by prem_ayako